こだわりの匠、かちわりの氷

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二階のオフィス部分です。

あれ…、マチザイノオトさんも、大壁でいいっんすか?! っていう声が聞こえてきそうですが、これには訳があるんす!
今回、施工をお願いしている、大工のとなみ野建築さんからの提案で「つけばしら」というやり方を、やってみることにしました。この建物は、貫の入った歴とした木造伝統工法です。ところが、土が塗り込んでなくて、最初にあった石膏ボードを解体してみると、お隣との間には何もありません。まぁ、まぁ、それでも、一階はガレージなので、それはそれで良いのです。断熱材を入れる必要もありませんから、既存の柱を活かして、壁も合板を貼り直したうえで、珪藻土を塗ります。これで十分です。

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上の写真は、一階部分です。柱は隠さず、真壁の造りで、このあとにプラスターボードを張って、珪藻土を塗ります。
きれいに直線の溝を掘っているのは配管屋さん。ここに新しく下水道の配管を通すため、丁寧にコンクリ土間を剥がしてくれています。狭いガレージに小さな重機が作業している様子、なんだが、面白い光景です。すごく丁寧な仕事に驚きました!

ちなみに、こういった倉庫(住居ではなかった用途)には下水の公共マスが、建物前の道路に埋設されていません。新たに下水を使う場合は、市役所に依頼をして公共工事をしてもらう必要があります。もし、都市計画で公共下水道を整備することになっている場所であれば、その工事は市役所が負担します。この建物は、対象になっていたので助かりました。施主さんの負担は、建物敷地内へ敷いてもらった下水道マスから先の工事部分のみとなります。

それと、柱と天井を支えている根太をつないでいる補強を「方杖(ほうづえ)」と言います。もともと図面にはなかったのですが、大工さんのこだわりです。町家と言えども、お隣さんに寄りかかっているようじゃダメ!建物単体でしっかり建ってないと、というコンセプトで補強してくださいました。きっとお値段以上の仕事のはずです。補強の位置は、ハイエースが入るくらい、という設定です。

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二階のオフィス空間は壁の中に断熱材を入れることにしました。お隣の建物との隙間が十分ではないため、柱の厚みいっぱいの空間を使い、その上に合板を貼ります。そしてさらに、もともと柱のあった場所に、厚みが通常より半分くらいの柱を「つける」のです。壁を珪藻土で塗ってしまえば、後からつけた柱だとは思われません。

実はこの方法は、フツーに、昔からあるやり方なんだそうです。ずるい方法のように思えますが、社寺建築でも使われる方法なんだそうです。この事実、密かにショックでしたが、考えてみれば、見えないけれども利用されるものがあっても良いのです。こうやって大工さんと話をしながら工事を進めていくのは、貴重な経験です。やっぱり、図面ありきじゃダメだし、かといって、全体像のイメージを関係者が共有するためには図面が大事。多分ですね、こうやって工事を進めると、絶対に悪意のある違法建築などは生まれないと思うのです。

こうしてマチザイノオトで、工事の途中を撮影して紹介するのは、完成してしまえば丁寧な仕事の跡が見えなくなってしまう。逆に、雑な仕事の跡が見えなくなってしまうことが残念だと思うからです。

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写真は天井を見上げているアングルです。斜めの部材は「火打ち(ひうち)」と言いますが、建物が水平方向にねじれないための補強です。フツーは、建物の角っこ、梁とケタが直角に交わる部分につけますが、このように梁の両側を補強しているのは珍しいです。補強をやりすぎると、建物を固める方向にいきます。大きな地震があったときは、補強した部分にテンションが集中することで、その周辺から壊れてしまうことが心配されます。しかしこの工事では、二階の天井裏の筋交いも含めて、補強をしたところを見てみると、適度に力が逃げるくらいのつけ方をしているのが分かります。つまり、経年による自然な傾きの抑えになるようになっているということです。大工さん、さすがです。

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そして、ここは1階の道路に面した柱です。さらっと伝統工法の継手をつくって補修してくれていますが、ここは手刻みの大工がやった仕事やで!という看板になります。「金輪継ぎ」という方法で、伝統工法には、こういった継手の種類が無数にあるんです。チョー、カッコいいです。もちろん、この柱は通りから見えるようにしておきます。

この物件ですが、今年、2017年の春から入居する方を募集します。まだまだ完成イメージが湧かないと思いますが、興味のある方がおりましたら、マチザイノオトのFacebookページまで、ご連絡ください。この場所は、富山県射水市の新湊地区にあります。

あ、そうだ!かちわりの氷の話をしていませんでした!北陸地方は、この数日間、大雪だったんです。しかも氷点下で寒い!駐車場に長時間放置したクルマのドアが開かない!完全に凍り付いてしまい、無理やり開けると塗装が剥げてしまうんじゃないかと心配です。そこで、プラスチックのヘラで、ドアの境目の部分についた氷をひたすらカチカチと割りました。雪は問題ないんですが、凍るのは勘弁です…。


明石 博之

[組織] グリーンノートレーベル(株)
[役職] 代表取締役
[職業]場ヅクル・プロデューサー

1971年広島県尾道市(旧因島市)生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学ぶ。大学を卒業後、まちづくりコンサル会社に入社。全国各地を飛び回るうちに自らがローカルプレイヤーになることに憧れ、2010年に妻の故郷である富山県へ移住。漁師町で出会った古民家をカフェにリノベした経験をキッカケに秘密基地的な「場」をつくるおもしろさに目覚める。その後〈マチザイノオト〉プロジェクトを立ち上げ、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザインを仕事の軸として、富山のまちづくりに取り組んでいる。

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