町家オフィス、ma.ba.lab.が完成

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完成です。内川に、もう1つ、拠点が出来上がりました。
と言っても、補修があったり、部分的に未完成のところがあったりと、プロデュースを任された身としては、しばらく落ち着かない日々が続くと思います。施主のワールドリー・デザイン代表(つまり、私の妻)には、やりたいことを存分にやらせてもらい、この場を借りて感謝を申し上げます。「ありがとう。」
そして、数々の無理な注文を形にしてくださった建築家の濱田修さん、藤井工業さんをはじめとする工事関係者の皆さま、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

空き家だった新湊の町家が、また1つ、使われる建物として生き返ったわけですが、その一方で、周辺の町家が取り壊されたり、みるみる朽ちていったりと、小さな力で踏ん張ってみても、限界があることを痛感させられます。

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そして、地域交流センター企画は、トヤマ事務所としてシェアさせていただくことになりましたが、念願だった町家オフィスが現実のものとなり、こんな素敵な場所(自画自賛)で毎日を過ごせると思うと、身分不相応でバチアタリな気もして、まだまだ非日常の気分に浸っております。

ここは蔵の前につくったキッチンスペースから、中庭ごしにオフィス空間を見れるところです。その逆に、デスクからキッチンを見れば、蔵が見えるという配置です。この非日常気分が、いつのタイミングで日常の風景になるのか、自分の感覚の変化が楽しみです。そして、ここで働く2つの会社のスタッフについても。

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デザイン的には、ここが売りの1つ。ガラスの大戸から、ズドーンと通り土間が見えて、そこで働いているスタッフが脱いだ靴が点々と見える、この感じ。最初はスッキリと靴を収納できるほうが良いかも、というプランもあったのですが、こうして正解だったと思います。
ma.ba.lab.の前を通り過ぎる人は、カフェとかレストランがオープンしたのかと期待して中を覗いて行かれます。でもここがオフィスだとわかっても、それはそれで驚くようです。

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二階の踊り場から、一階で仕事をしているスタッフを見下ろしている光景です。どこから切り取ってみても、何だか非日常感は拭い去れません。この場は、建築家の濱田さんと試行錯誤した結果、必然的にできてしまった回廊です。入り口正面の土間から二階へ上がる通路を確保するため、梁を避けながら、強度を考えながら壁を抜きながら、立体的に複雑な回廊ができました。

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そしてここは、以前の持ち主さんが隣の家を買われて、くっつけた場所で、イベントやワークショップなどの集まりができる場としました。普通の町家では成立しない間取りですが、この場所ならではの面白い空間デザインができました。まだ建築途中かな…という雰囲気を残しつつ、イマジネーションを掻き立てるにはちょうどいい刺激的な空間になったと思います。

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1階の床には、建物を解体するときに出てきた廃材を利用して、埋め込んでいます。正面は内蔵の壁です。1階では、この壁をスクリーンに見立てて、プロジェクタを投影できるようになっています。

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正面玄関から通り土間を抜けて中庭へ、そこから見えるオフィスは社長室です。すみません、ちょっと贅沢させてもらっています。中庭の植栽デザインは、ガーデンデザイナーの水牧さんです。完成するのが待ち遠しい。ここは、四方を囲まれた空間なのに、風の通りが良いのです。町家って、うまく考えられて設計されているんだと、使ってみてはじめて気づきました。

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内川沿いの通路はこうなりました。両隣は空き家です。夜、内川をさんぽしていると、突如として現れる光の通路?!ガルバリウムで覆われた古い町家群に馴染んだ錆びた鉄板の入り口です。昼間、この細くて目立たない入り口を探すのは苦労するはずです。リノベーションをする前から「秘密基地」というイメージが湧いていました。

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新湊は獅子舞が盛んです。この町内は5月15日が獅子舞祭りです。建築当初から、この日にオープンを間に合わせたいと思っていました。そして無事、その日を迎えることができ、祝いの花を打ちました。「花を打つ」とは、結婚や出産などのメデタイ出来事があった年の獅子舞祭りに、祝儀を出して、普段よりも長く、派手に舞ってもらうという伝統的な習わしです。だから好きなんです、こういう町が。思えば3年前、uchikawa六角堂をオープンしたときも、花を打たせていただきましたが、あれからもう3年が経つんですね。

空き家になって放置されている古い町家が、どんどん朽ちて、解体されてしまう数やそのスピードは加速しています。こうした小さな抵抗をして、地域や町家の持ち主さんの考え方が少しでも変わっていくことを望むばかりです。壊す前に、ぜひご相談ください。できる限りの知恵を絞ってみたいと思います。


明石 博之

[組織] グリーンノートレーベル(株)
[役職] 代表取締役
[職業]場ヅクル・プロデューサー

1971年広島県尾道市(旧因島市)生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学ぶ。大学を卒業後、まちづくりコンサル会社に入社。全国各地を飛び回るうちに自らがローカルプレイヤーになることに憧れ、2010年に妻の故郷である富山県へ移住。漁師町で出会った古民家をカフェにリノベした経験をキッカケに秘密基地的な「場」をつくるおもしろさに目覚める。その後〈マチザイノオト〉プロジェクトを立ち上げ、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザインを仕事の軸として、富山のまちづくりに取り組んでいる。

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