地震に強い町家を考える マチザイNo.5
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地震に強い町家を考える マチザイNo.5 write 明石 博之
これこそが、氷見の典型的な町家
間口がほんの二間、奥行きだって、せいぜい十間ってとこでしょうか。お隣とぴったりとくっついた、氷見の典型的な町家です。しかも、ただの「典型的」ではなくて、この町家「A邸」は、氷見市中心部の家屋約5,300軒すべてを調査し、個々の建築的な特徴を分析したうえで「氷見市でもっとも多く存在するパターンの町家」というものを導き出した、その代表的な物件です。この調査はGNLのメンバー、地域交流センター企画が受託した「空き家活用まちづくり事業」の一環として実施。地域おこし協力隊、それに富山大学芸術文化学部の先生や学生など、色々な方に協力して頂き、約半年がかりで、やっとこさ完了しました。
日本初?、超過保護な耐震工事
ご覧の通り、いわゆる歴史的建築物のイメージとは異なり、どこにでもありそうな昭和の町家です。アルミの建具に、ガルバリュウムで覆われた外壁、そして雪止めの付いた新しい屋根瓦…ですが、この町家は立派な木造伝統工法の家屋です。推定築80年くらいでしょうか。
これらの木造伝統工法の町家は、隣とくっついて建築されているため、間口や中庭からの光や風を最大限取り入れる間取りになっています。つまり、長い間取り方向には、ほとんど壁がありません。伝統的な日本家屋の素晴らしい特徴なのですが、現代のルールに当てはめて耐震診断をすると、ほぼ100%の確率で「アウト!」です。
通常、このままの状態で住み続けるには何の問題もありませんが、ひとたび、増改築や用途変更をしようとすると、建築基準法の壁にぶつかってしまいます。そこで、具体的にこうやって、耐震補強をして、限界耐力計算という方法で耐震診断すればオッケー!という耐震改修モデルをつくってみた、というのがこの町家「A邸」のリノベーションプロジェクトです。こちらは、氷見市とアートNPOヒミングの連携事業として行い、地域交流センター企画がプロジェクトコーディネーションを担当しました。
もともと木造伝統工法は、万が一の地震のときには、梁や柱がしなやかに揺れ、建物が完全に倒壊しないように粘るという特徴を持つ構造ですから、狭い間口にさらに壁を追加するということが過剰な補強に思えて仕方ないのです。尺貫法という、素晴らしいモジュール
この町家の建築調査と設計は、伝統工法に詳しい建築家の清水徹さん(アトリエ縁)にお願いしました。清水さんは氷見市のご出身で、社寺建築の設計や保存に携わってきたその道のスペシャリストです。こんな小さな町家を手がけるのは初めてとのことでしたが、快く協力してくださいました。こういった町家を使いたいというニーズが増えてくることを期待している我々にとっては、伝統工法の特徴をよく知っている専門家と手を組み、より多くの実績を積み重ねていきたいところです。
古い建物の場合、まず現状図を作るところから始めます。建築家の仕事はミリ単位の正確性を求められますが、大工仕事は現場合わせが基本です。測量しているメモを見させてもらうと、その対比がよく表れていました。上の写真に写っている板には、元の畳の場所を記録したメモが書かれています。ちなみに日本に古来からある長さの単位に「尺」があります。1尺=303.03ミリ、とされていますが、本質的には1尺=約30センチメートル、と言ったほうが正しいかもしれません。というのも、現代の工業製品としての畳と違い、昔の町家に敷いてある畳はすべて大きさやカタチが違うからです。なので、昔の建物は「尺」や「間」という単位をモジュールで考えていたのではないかと思うのです。
清水さんが描いた測量メモを見ますと、柱と柱の間の長さが場所によって微妙に違うことがわかります。でもきっと、材木の具合や絶妙な足し算、引き算によって建築として成立し、現にこうやって80年もの歳月が過ぎても立派に、しっかりと現存しているのですから。中庭で見つけたアートな波型トタン
ココまで来ると、もう病気ですね…。お隣の外壁がカッコいい借景になってまして、ここからの中庭の眺めに魅了されてしまいました。時間による経年変化という価値はお金で買えないものですから、こういった壁を簡単に壊して、新しくしてしまう感覚には共感できません。
話が大幅に逸れてしまいました。構造の専門家に限界耐力計算による診断をして頂くわけですが、その結果を踏まえて、単に壁を増やして補強するだけでは面白くありません。予算の許す限り、視覚的にもデザイン性を高めて、皆さんに注目してもらいたいし、こんな町家に住んでみたいという思う人を増やしたい、氷見に移住したいと思う小さな動機になれば嬉しい。色々な意味でのモデルとなって、町家の良さを感じてもらう場になることを願っています。 - «
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