氷見の天然温泉で、ポジティブな車イスの旅を マチザイNo.16

  • 「独立初の仕事は、僕と一緒にしますか?」 write 神田 謙匠

    ごあいさつ

    はじめまして、神田謙匠と申します。
    2021年に独立した、富山県を拠点に活動している一年生建築家です。
    以前に在籍していた<濱田修建築研究所>の担当スタッフとして、マチザイノオトのプロジェクトには、度々関わらせていただきました。
    これから、マチザイノオトで記事を書くことがあると思いますので、よろしくお願いします。

    独立して間もないある日、<グリーンノートレーベル株式会社(GNL)>の明石さんから突然の連絡がありました。

    「独立初の仕事は僕と一緒にしますか?」と。

    このような大変に光栄なオファーをいただき、今回の民宿<湯の里いけもり>のリノベーションプロジェクトに参加することになりました。
    冒頭の写真は、リノベをする建物とボイラー室の間の通路です。今回もっとも難関であろう1つのポイントを1枚目として登場させました。

    謎多き民宿文化あれこれ

    わたし自身は氷見の民宿に泊まったことがなく、海沿いを通っていると見かける「民宿」の看板から、その存在を知るのみでした。

    しかし「氷見 〇〇」とネットで調べてみると、「氷見 民宿」は検索候補欄から5番目に登場することに驚きを隠せません。氷見と言えばブリというイメージが強いのですが、それと並んでメジャーな存在が民宿なのです。

    「日本海の見える部屋で、キトキトなご馳走をいただく。」

    これは氷見の民宿に持っていた私のイメージで、「民宿=海沿いの宿」と勝手に思い込んでいました。
    氷見は富山県の西側(呉西地域)にあります。その反対側の呉東地域生まれのわたしにとって、民宿文化とは謎多きものです。

    調べてみると、海水浴を楽しむ観光客を“帰省した我が子”のように迎え、新鮮な海の幸でもてなしたのが民宿の起源なのだとか。
    「氷見温泉郷」と呼ばれることから、県内有数の温泉地であるとも言えます。観光名所、海の幸、温泉、この三拍子が揃い、海沿いの旧街道をなぞるように民宿文化が根付いたことにより、「民宿=海沿い」と勝手に連想していただけに過ぎなかったことがわかります。

    今では、家族を迎え入れるようなアットホームな雰囲気のおもてなしが民宿の特徴なのだと理解できます。
    ちょっとだけですが、謎が解けてきたように感じます。

    山里に佇む秘境の民宿

    氷見は宝達丘陵のふもとにあり、山と海のコントラストに富んだ富山県地形の縮図ともいえる場所です。
    海岸線沿いの旧氷見街道からから内陸に向かって車で5分。するとすぐに深い山々に囲まれた環境に出会います。こんなに力強い地形のなかに埋もれるように、今回のプロジェクトの舞台である「湯の里いけもり」はあります。なんと、源泉かけ流しの温泉です。

    前回の記事にて、ざっと宿の紹介をしましたので、詳しくはこちらもどうぞ。

    リンク:【氷見の天然温泉で、ポジティブな車イスの旅を マチザイNo.16】

    海よりも山が近く、立山よりも星が良く見える、まさに秘境の宿の佇まいです。

    創業は平成元年。当時の時代背景を思わせるようなバブリーな華美さはなく、素朴で落ち着いた印象です。
    しかし、床面積は300坪超。こちらは世相を感じるかなりの大きさで、これまでのわたしが関わったマチザイの中でも、ダントツ最大規模です。この大きな宿を昨今のニーズに応えるべく、ハード・ソフトともに全面リニューアルすることになりました。

    といってもその間の営業を止めるわけにはいきません。工事を二期以上に分ける長期戦となります。まず第一期工事では、今年秋のオープンを目指し、新しいエントランスとロビー、4名定員の客室を2つ、そして露天風呂を計画します。

    赤瓦の屋根が重なり合う印象的な外観は、この環境の標とする先代の計らいなのでしょう。建物と山に挟まれた坂道の先が、新しい宿のエントランスになります。宿に至るアプローチは、世俗を断ち、そして期待感を高める重要なポイントになります。

    歩いてみると、葉っぱの擦れる音、鳥や虫の鳴き声、山草の匂いなど、自然の存在が間近に感じられ、これから過ごす環境の解像度を一気に高めてくれます。山に続くこの道は、くねりと傾斜で先の見通せないようになっています。これらの天然の演出によって、宿泊客のスイッチが切り替わる効果的な導入部になることでしょう。ここは非常に重要なポイントです。

    何かとメンテナンスが大変な温泉のボイラー設備。これを維持管理する大変さと、温泉を求めてやってくるお客の喜びは、まさに表裏一体です。

    民宿いけもり2.0

    時代と客層の変化のためか、そしてコロナ禍のためか、建物と利用者のミスマッチは否応なしに広がっているように感じます。
    サービスだけでその差を埋めるには限界があるでしょう。この民宿を愛している県内外の常連さん、そしてこれから初めてやって来る(帰ってくる)お客さんに、今求められる「おもてなし」を提供できる宿にしなければなりません。

    数ある氷見の民宿の中で、初めての挑戦的リニューアルになるはず。
    これまでの30年を引き継ぎ、これからの30年を紡ぐ、未来につながる民宿の姿を目指します。