氷見の天然温泉で、ポジティブな車イスの旅を マチザイNo.16

  • ポジティブな車いすの旅を楽しむ、氷見のリノベ温泉宿 write 明石 博之

    氷見の里山にある天然温泉の宿「民宿いけもり」別館のリノベーションが完了しました。2022年11月からオープン。聞くところによると、予想以上の反響があり、問合せの電話が何件も入っているそうです。別館は、車いすを使う必要があるゲストが、健常な家族や友人と一緒に、気兼ねなく楽しく過ごしてもらうために企画したユニバーサルデザインの空間です。コロナ禍を経て、今までの客層とは異なる新しいマーケットに飛び込んでいこうとリニューアルしました。4名定員のゲストルームが2部屋と、宿泊する方だけが利用できる天然温泉の露天風呂があります。目指すのは非常にニッチなビジネスですが、確実に希少価値が高いコンセプトだと言えます。リノベ前の様子は以下のページをご覧ください。

    リンク:【氷見の天然温泉で、ポジティブな車イスの旅を マチザイNo.16】

    ユニバーサルデザインの観点でリノベーションを語りますと、空間デザインとしての魅力を一切損なうことなく、当たり前のようにバリアフリーの設計になっている、とでも言いましょうか。使ってみてはじめてわかる「配慮」への気づきがあっても良いのです。プロジェクトの計画当初は、ひとり単価が5万円(料理込み)に見合う上質なデザインと設備、そして料理。旅行にお金を惜しまない、素敵な宿であれば無理してでも泊まってくださる、そのような人たちをお客様としてイメージしました。

    ところが、フタを開けて見ると「バリアフリー」のニーズの多さに驚く、という結果になりました。問い合わせの中には「おばあちゃんとの最後の旅行になるであろう宿として選びたい」など。確かに事前マーケティングをしたとき、観光庁や業界団体の調査結果を見えても車いすのバリアフリー対応をしている宿が25%以下だった記憶があります。

    宿の名称は「湯の里いけもり別館 AMAZA」です。漢字では「天座」と書きます。氷見の里山のなかにあって、星空がきれいに見える場所。まさに天と里のあわい(間)に居座っている、感性はずむ宿をつくろうと思い、名付けました。女将からのリクエストは「宇宙が広がるように、神秘世界を感じるように」でした。だから、すべての母音を「あ」で構成したかったのです。そして口にするたびに、幸せになる魔法をかけてしまうような響きのある音。それが「あ・ま・ざ」です。池森さんに気に入っていただきました。

    写真のように、リノベによって新しく設けた玄関までの導線が坂道になってしまいましたが、もし車いすを利用される方の場合は、ヤマハの電動サポート付の車いすをお貸しすることになっています。僕も使ってみましたが、難なくスイスイと登っていけます!これで周辺の散策も楽しくなるはず。実はもっとも大事なコンセプトの1つが「冒険したい気持ちを後押しする」なのです。過度に負担が増してしまうリノベーションをすることを良しとしたくないため、AMAZAはすべてのことを完全にバリアフリーにはしていません。元の間取の面白さや、空間の魅力やデザインを優先した場所も多くあります。仮に不便だと感じても、宿での体験をポジティブに楽しむ気持ちを持っていただけるようなプロデュースをしたいと考えました。

    お部屋の紹介をします。4名定員のゲストルームは「MIRE」と「SORA」と言います。上の写真の部屋が「MIRE」です。和室の客間4部屋ほどの壁と天井を取っ払ってできた空間です。ちなみに部屋の名称を構成する言葉の1つ1つ「ミ・レ・ソ・ラ」はすべて音階になっています。「MIRE」は韓国語で「未来」という意味です。部屋のある場所が方角上、間取上、あまり陽が入ってこないため、静的で内向きのイメージを抱きますが、それを打ち壊すほどの思考が広がるデザイン的な仕掛けを考えました。

    具体的なポイントとして、少々のポエムをお許し頂けるのであれば、例えばこんな感じです。天井から下方に伸びた空洞のプリズム(四角柱)から落ちた明かりは、床の漆黒タイルとどう会話をするのか?壁に生息しているヒョウは、あなたをどう見て何を考えているのか?部屋の外に見える既存の外壁は、あなたが容認できる存在なのか?

    さて、お部屋の紹介の続きですが、平屋の建物の特徴を活かして、思いっきり天井を高く取りました。梁と屋根組を見せるのは、古民家をリノベーションしたことを実感してもらいたいからです。そして大きな空間のなかに、小さなお家があるかのごとく、入り妻の白い建物のような形をしたものがあります。ここがゲストルームの入口とクローゼットを兼ねた空間になっています。

    照明のお話もしておきたいです。AMAZAの空間には、天井埋込型のダウンライトと呼ばれる照明器具をほとんど使っていません。正直、私の好みの問題もあるかもしれませんが、くつろぎの空間にはあまり相応しくないと思っています。その代わりに梁の上端(うわば)と側面に小型のスポットライトを各所に設置、照度や明かりの当り方を微調整しながら位置を決めました。

    このダイニングテーブルのデザインの拘りはぜひともお伝えしたいです。車いすを利用されることを想定して、スッと席につきやすいよう片側を1本脚にしています。つまりテーブル全体としては3本脚になり、4本脚よりもバランスが悪くなる弱点を補強や固定でなんとかクリアしました。製作は家具職人の高木博之さん。

    今回コーディネートしたインテリア家具は、ほぼすべて国内メーカーの家具です。大好きなプロダクトデザイナー、深澤直人さんのデザインが多いです。最近の国内メーカーのデザインやクオリティは素晴らしい。ちなみに、昨年から家具の販売も開始しました。空間デザインの要となるインテリア家具のコーディネートの幅を広げたいと考えていたのと、少しでも安く提供したいと思ったからです。

    今回のモデルは、富山大学で建築を勉強して入社した新人の北野(左)と、AMAZAのアメニティやサービスデザインなどを担当した高橋(右)です。

    トイレの便器の上にシロクマが立っていますが、ひとまず気にしないでください。あとでお話しします。壁に取り付けた白いパイプはデザインを兼ねた手すりです。バリアフリーを考えるときに「いかにも手すり」というデザインにしたり、公共施設にあるような機能重視の手すりを使うことには抵抗があります。最近はカッコいい手すりも増えてきました。

    ちょこっと見えるアルミ製のテーブルは下方向への折り畳み式になっており、車いすでトイレを利用する方がいる場合は、テーブルを仕舞っておきます。上部に見える明り取りの窓からは、裏山の緑を感じることができます。

    ↑お風呂から見える小さな石庭。本当にささやかな庭ですが、四方を壁で囲まれたお風呂だけは造りたくありませんでした。浴槽に浸かってこの空間を眺めたらどんな気分なのでしょ、私も早く体験してみたいです。しかし、山﨑広介箱庭設計さんの石のチョイスが絶妙です。なんだか火星から持ってきたような石です。植物を置くかどうか、最後まで悩みましたが、山崎さんと「シンプルがいい」という意見で合意しました。

    こちらは「SORA」です。まさに空が見えるテラス付きの明るく、オープンな空間です。よーく見ると壁の色も淡い水色です。両方の部屋にイタリア製の陶器タイルを使っています。床暖房を採用しているので冬でも暖かく、かかとが強い人であれば、素足でも気持ち良いかもしれません。かかとの弱い私は遠慮しておきます。

    あと、色の話です。スティーブンさんがオーナーの「BRIDGE BAR」の空間デザインを手がけたとき、日本人が勇気を出して使えないような色の指定をいただき、設計担当の山川さんたちと一緒に驚いたことを思い出します。それ以来、和の建築にも積極的に色を使うようにしました。都の日本建築はもともと、多彩な色を惜しげもなく使っていることを再確認する結果にもなりました。「発想角度を変えて、色使いを再定義せよ」そんな言葉が自分の頭の中をよぎりました。

    リンク:【外国人オーナー、橋のたもとにBARオープン マチザイNo.10】

    で、それからというもの、古民家のリノベーションを構想するとき、色合いを大胆に考えてみようと思うようになりました。特殊塗料を使える業者さんが身近にいることも、それを後押ししてくれました。写真の右手に見える扉も、躊躇せずにムラのある紫色の特殊塗装を大胆に使っています。今になって、大学で勉強していた色相と彩度の理論がいかに大事であるかを経験的に理解しています。

    それから、色と同じくらい大胆に使うようになったのは無垢材です。その素材が表面的な化粧なのか、物体が無垢なのかで、空間を流れる「空気」の質を変えてしまうくらいの違いがあると思うのです。紫色の扉の取手は無垢の真鍮です。指を掛けやすいかどうか、設計担当の神田くんとアイデアを出し合って、細部に至るところまでユニバーサルデザインのポリシーを貫きました。最終的にはコストとの闘いですが、ゲストが触れる場所から、ゲストがよく見る場所から、優先順位を高めていくという考えに行きつきます。

    ベッドルームとリビングとは、カーテンで緩やかに、曖昧になるよう仕切ることにしました。素材は100%天然のリネンです。メーカー品のカタログの中ではイメージに合う素材が見つからず、これを探すのに苦労しました。近づいてみて気づくと思いますが、微妙に糸が細かったり太かったりするような有機的な織り方をしている生地です。そのお陰で空間に優しさを与えてくれているように思います。丈も長く、これほど大きな面積を占める布素材を空間に配することに対しては、なかなかの勇気がいるものですから、かなり慎重に吟味しました。結果的には、壁の仕上げ、床のタイルの表情との相性も良いと思います。透け感も良い感じです。

    こちらのトイレ・洗面所にはマンドリルがいます。ここで先ほどから登場している動物たちの絵について説明をします。この子たちは、イラスト作家のノグチマリコさんによる作品です。彼女は動物のイラストが得意で、リアルな描写のなかに独特の愛嬌を表現している作風がとても気に入っています。氷見の里山には生息していない種類の動物たちですが、AMAZAの世界観を創り出すには必要な存在でした。指の勢いに任せてタイピングしてしまいましたが「AMAZAの世界観」ってなんでしょう?ちょっとだけ立ち止まってみます。

    それを「さりげない愛嬌」という言葉にまとめてみました。ラグジュアリーでもなく、ポップでもなく、クールでもなく、かと言ってカワイイというとちょっと的外れな気がします。上質なデザインを追求するのは当たり前ということを前提に、洗練されているのにどこか愛嬌があるっていうイメージでしょうか?それが実現しているかどうかは、ゲストの感性にお任せします。いずれにしても、この動物たちは、仮に空間デザインが場のコンセプトから外れてしまったときでも、その軌道修正をしてくれる立役者になってくれることは間違いなさそうです。

    こちら、お部屋を出てロビーを通り、脱衣室を経由して屋外に出たところにある天然温泉の露天風呂です。2組のゲストが使うため、時間を調整したうえで使う貸切スタイルとなります。屋根がない方角には視界を遮るものはなく、夜空を楽しみながら天然温泉に入って頂けるよう設計されています。既存の建物との関係を崩さぬように新しく露天風呂の屋根をかけ、周辺から見えないように壁をつくり、でもしっかりと解放感があるように、などと様々な制限があるなか、神田くんが見事にそれをクリアした設計をしてくれました。

    床や腰壁そして浴槽には、小松市滝ケ原町で採掘される滝ケ原石をふんだんに使っています。とても軟らかい石です。ここの浴槽がAMAZAのコンセプトを支える大事な要素であり、宿の代名詞にもなり得る一番のウリです。油圧ポンプの力によって浴槽の床が昇降するしくみになっています。写真にはありませんが、専用の車いすで浴槽まで移動し、装置のレバーを動かせば床が下がって、湯に浸かることが可能です。このような昇降装置が商品化されており、これを製作しているメーカーが国内にあります。福祉施設以外の場所で使われるのは、AMAZAが全国で2番目の事例だそうです。秘密基地っぽくて、男子が好きそうな装置ですよ。詳しい内容はAMAZAの公式ページをご覧ください。

    ロビーにある受付カウンターは、夜になったら北陸ウヰスキーと日本酒が楽しめるBARに変身します。着物姿の女性が女将の典子さんです。池森さんご夫婦の娘さんもすでに若女将として宿の運営に参加しており、運営体制は盤石です。オープン1カ月前には若い運営スタッフが池森さんの元に集まっていて、この人手不足で困っているご時世だと言うのに、大変素晴らしいことだと思いました。羨ましい限りです。

    ちなみに正面に見える壁は、ワラを大量に漉き込んだ土の壁です。壁を大地に見立てて、そこからニョキっと生えた木をイメージしたのが有機的なカタチのカウンターテーブルです。写真では鮮明に見えないと思いますが、壁にあるブラケットライト(照明器具)は、船便の混雑により到着まで1年以上待ったキノコのような形の商品です。イメージに合う代替品がなく、手に入らない最悪の事態の場合、作家さんに同じようなものを作ってもらおうと段取りまでしていたました。間に合ってホッとしています。

    AMAZAと一緒に「星空観測小屋」なる場所を新設しました。寒い季節に利用するには少々厳しいと思いますが、リクライニングチェアに寝そべって、満天の星空を楽しんでもらいたい場所です。お酒を持ち込み、しっかりと着込んで素敵な時間をお過ごしください。この小屋にはトイレもあります。

    今回のプロデュースのお仕事は、かつてないほど広範囲に渡るところまで担当させてもらいました。補助金をゲットするために、詳細な事業企画や経営計画づくりをサポートし、目指すべきマーケットを明確にした状態から場づくりの基本構想を組み立てることができました。プロジェクトのグランドデザイン、グラフィックデザインのディレクション、サービスデザイン、アメニティや備品の選定、パジャマのデザインなどなど、建築空間以外のブランディングは今まで以上に深くかかわりました。リノベーション工事についても、仕事の幅を広げてくれた3D造形ソフト「Sketch up」が本当に自分の感性にピッタリの機能と操作性を有しており、細部に至る空間デザインをほぼ完ぺきな形で表現できるようになりました。設計担当とのパス作業の効率も高まりつつあります(というより、相当頑張ってデザインデータを汲み取ってとってくれているはず)。インテリア家具やインテリア照明についても、商品知識やお付き合いの幅が広がることによりディレクションのやり方も深まります。また、作家さんや職人さんとのコラボも増えつつあり、表現したいことへのチャンレンジに対して勇気をもらえます。

    そして、いつもお世話になっている藤井工業の藤井社長には全幅の信頼を置いています。この人であれば、どんなデザインでも必ず形にしてくれるという信頼です。各工事を担当している職人さんも頼もしい限りです。何度も一緒にやっているうちにデザインパースや設計図に表現されていないことでも、見えない意図を汲んでくれます。あれっ、と思ったらすぐに質問をしてくれます。

    最後に、グリーンノートレーベルにプロデュースをご依頼いただいた池森さんご夫婦、ご家族の皆さんに対して、この場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。このページをご覧の皆さん、AMAZAに興味を持って下った方はぜひ一度はご利用してみてください。本当にいい宿です。池森さん、そしてAMAZAで働く素敵な人たちとの出会いを楽しんでください。

    Photo:ドットダック(※明らかに下手くそな数点のみ、HIROYKI AKASHI)
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    湯の里いけもり別館 AMAZA

    〒935-0007 富山県氷見市指崎1632
    TEL 090-7169-1000
    公式ページ:湯の里いけもり別館 AMAZA

  • 「独立初の仕事は、僕と一緒にしますか?」 write 神田 謙匠

    ごあいさつ

    はじめまして、神田謙匠と申します。
    2021年に独立した、富山県を拠点に活動している一年生建築家です。
    以前に在籍していた<濱田修建築研究所>の担当スタッフとして、マチザイノオトのプロジェクトには、度々関わらせていただきました。
    これから、マチザイノオトで記事を書くことがあると思いますので、よろしくお願いします。

    独立して間もないある日、<グリーンノートレーベル株式会社(GNL)>の明石さんから突然の連絡がありました。

    「独立初の仕事は僕と一緒にしますか?」と。

    このような大変に光栄なオファーをいただき、今回の民宿<湯の里いけもり>のリノベーションプロジェクトに参加することになりました。
    冒頭の写真は、リノベをする建物とボイラー室の間の通路です。今回もっとも難関であろう1つのポイントを1枚目として登場させました。

    謎多き民宿文化あれこれ

    わたし自身は氷見の民宿に泊まったことがなく、海沿いを通っていると見かける「民宿」の看板から、その存在を知るのみでした。

    しかし「氷見 〇〇」とネットで調べてみると、「氷見 民宿」は検索候補欄から5番目に登場することに驚きを隠せません。氷見と言えばブリというイメージが強いのですが、それと並んでメジャーな存在が民宿なのです。

    「日本海の見える部屋で、キトキトなご馳走をいただく。」

    これは氷見の民宿に持っていた私のイメージで、「民宿=海沿いの宿」と勝手に思い込んでいました。
    氷見は富山県の西側(呉西地域)にあります。その反対側の呉東地域生まれのわたしにとって、民宿文化とは謎多きものです。

    調べてみると、海水浴を楽しむ観光客を“帰省した我が子”のように迎え、新鮮な海の幸でもてなしたのが民宿の起源なのだとか。
    「氷見温泉郷」と呼ばれることから、県内有数の温泉地であるとも言えます。観光名所、海の幸、温泉、この三拍子が揃い、海沿いの旧街道をなぞるように民宿文化が根付いたことにより、「民宿=海沿い」と勝手に連想していただけに過ぎなかったことがわかります。

    今では、家族を迎え入れるようなアットホームな雰囲気のおもてなしが民宿の特徴なのだと理解できます。
    ちょっとだけですが、謎が解けてきたように感じます。

    山里に佇む秘境の民宿

    氷見は宝達丘陵のふもとにあり、山と海のコントラストに富んだ富山県地形の縮図ともいえる場所です。
    海岸線沿いの旧氷見街道からから内陸に向かって車で5分。するとすぐに深い山々に囲まれた環境に出会います。こんなに力強い地形のなかに埋もれるように、今回のプロジェクトの舞台である「湯の里いけもり」はあります。なんと、源泉かけ流しの温泉です。

    前回の記事にて、ざっと宿の紹介をしましたので、詳しくはこちらもどうぞ。

    リンク:【氷見の天然温泉で、ポジティブな車イスの旅を マチザイNo.16】

    海よりも山が近く、立山よりも星が良く見える、まさに秘境の宿の佇まいです。

    創業は平成元年。当時の時代背景を思わせるようなバブリーな華美さはなく、素朴で落ち着いた印象です。
    しかし、床面積は300坪超。こちらは世相を感じるかなりの大きさで、これまでのわたしが関わったマチザイの中でも、ダントツ最大規模です。この大きな宿を昨今のニーズに応えるべく、ハード・ソフトともに全面リニューアルすることになりました。

    といってもその間の営業を止めるわけにはいきません。工事を二期以上に分ける長期戦となります。まず第一期工事では、今年秋のオープンを目指し、新しいエントランスとロビー、4名定員の客室を2つ、そして露天風呂を計画します。

    赤瓦の屋根が重なり合う印象的な外観は、この環境の標とする先代の計らいなのでしょう。建物と山に挟まれた坂道の先が、新しい宿のエントランスになります。宿に至るアプローチは、世俗を断ち、そして期待感を高める重要なポイントになります。

    歩いてみると、葉っぱの擦れる音、鳥や虫の鳴き声、山草の匂いなど、自然の存在が間近に感じられ、これから過ごす環境の解像度を一気に高めてくれます。山に続くこの道は、くねりと傾斜で先の見通せないようになっています。これらの天然の演出によって、宿泊客のスイッチが切り替わる効果的な導入部になることでしょう。ここは非常に重要なポイントです。

    何かとメンテナンスが大変な温泉のボイラー設備。これを維持管理する大変さと、温泉を求めてやってくるお客の喜びは、まさに表裏一体です。

    民宿いけもり2.0

    時代と客層の変化のためか、そしてコロナ禍のためか、建物と利用者のミスマッチは否応なしに広がっているように感じます。
    サービスだけでその差を埋めるには限界があるでしょう。この民宿を愛している県内外の常連さん、そしてこれから初めてやって来る(帰ってくる)お客さんに、今求められる「おもてなし」を提供できる宿にしなければなりません。

    数ある氷見の民宿の中で、初めての挑戦的リニューアルになるはず。
    これまでの30年を引き継ぎ、これからの30年を紡ぐ、未来につながる民宿の姿を目指します。