世間デザインする古民家オフィス マチザイNo.3

  • 町家オフィス、ma.ba.lab.が完成 write 明石 博之

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    完成です。内川に、もう1つ、拠点が出来上がりました。
    と言っても、補修があったり、部分的に未完成のところがあったりと、プロデュースを任された身としては、しばらく落ち着かない日々が続くと思います。施主のワールドリー・デザイン代表(つまり、私の妻)には、やりたいことを存分にやらせてもらい、この場を借りて感謝を申し上げます。「ありがとう。」
    そして、数々の無理な注文を形にしてくださった建築家の濱田修さん、藤井工業さんをはじめとする工事関係者の皆さま、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

    空き家だった新湊の町家が、また1つ、使われる建物として生き返ったわけですが、その一方で、周辺の町家が取り壊されたり、みるみる朽ちていったりと、小さな力で踏ん張ってみても、限界があることを痛感させられます。

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    そして、地域交流センター企画は、トヤマ事務所としてシェアさせていただくことになりましたが、念願だった町家オフィスが現実のものとなり、こんな素敵な場所(自画自賛)で毎日を過ごせると思うと、身分不相応でバチアタリな気もして、まだまだ非日常の気分に浸っております。

    ここは蔵の前につくったキッチンスペースから、中庭ごしにオフィス空間を見れるところです。その逆に、デスクからキッチンを見れば、蔵が見えるという配置です。この非日常気分が、いつのタイミングで日常の風景になるのか、自分の感覚の変化が楽しみです。そして、ここで働く2つの会社のスタッフについても。

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    デザイン的には、ここが売りの1つ。ガラスの大戸から、ズドーンと通り土間が見えて、そこで働いているスタッフが脱いだ靴が点々と見える、この感じ。最初はスッキリと靴を収納できるほうが良いかも、というプランもあったのですが、こうして正解だったと思います。
    ma.ba.lab.の前を通り過ぎる人は、カフェとかレストランがオープンしたのかと期待して中を覗いて行かれます。でもここがオフィスだとわかっても、それはそれで驚くようです。

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    二階の踊り場から、一階で仕事をしているスタッフを見下ろしている光景です。どこから切り取ってみても、何だか非日常感は拭い去れません。この場は、建築家の濱田さんと試行錯誤した結果、必然的にできてしまった回廊です。入り口正面の土間から二階へ上がる通路を確保するため、梁を避けながら、強度を考えながら壁を抜きながら、立体的に複雑な回廊ができました。

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    そしてここは、以前の持ち主さんが隣の家を買われて、くっつけた場所で、イベントやワークショップなどの集まりができる場としました。普通の町家では成立しない間取りですが、この場所ならではの面白い空間デザインができました。まだ建築途中かな…という雰囲気を残しつつ、イマジネーションを掻き立てるにはちょうどいい刺激的な空間になったと思います。

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    1階の床には、建物を解体するときに出てきた廃材を利用して、埋め込んでいます。正面は内蔵の壁です。1階では、この壁をスクリーンに見立てて、プロジェクタを投影できるようになっています。

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    正面玄関から通り土間を抜けて中庭へ、そこから見えるオフィスは社長室です。すみません、ちょっと贅沢させてもらっています。中庭の植栽デザインは、ガーデンデザイナーの水牧さんです。完成するのが待ち遠しい。ここは、四方を囲まれた空間なのに、風の通りが良いのです。町家って、うまく考えられて設計されているんだと、使ってみてはじめて気づきました。

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    内川沿いの通路はこうなりました。両隣は空き家です。夜、内川をさんぽしていると、突如として現れる光の通路?!ガルバリウムで覆われた古い町家群に馴染んだ錆びた鉄板の入り口です。昼間、この細くて目立たない入り口を探すのは苦労するはずです。リノベーションをする前から「秘密基地」というイメージが湧いていました。

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    新湊は獅子舞が盛んです。この町内は5月15日が獅子舞祭りです。建築当初から、この日にオープンを間に合わせたいと思っていました。そして無事、その日を迎えることができ、祝いの花を打ちました。「花を打つ」とは、結婚や出産などのメデタイ出来事があった年の獅子舞祭りに、祝儀を出して、普段よりも長く、派手に舞ってもらうという伝統的な習わしです。だから好きなんです、こういう町が。思えば3年前、uchikawa六角堂をオープンしたときも、花を打たせていただきましたが、あれからもう3年が経つんですね。

    空き家になって放置されている古い町家が、どんどん朽ちて、解体されてしまう数やそのスピードは加速しています。こうした小さな抵抗をして、地域や町家の持ち主さんの考え方が少しでも変わっていくことを望むばかりです。壊す前に、ぜひご相談ください。できる限りの知恵を絞ってみたいと思います。

  • それっぽく、カタチになってきたma.ba.lab. write 明石 博之

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    このオフィス、ma.ba.lab.って言います。以後、お見知り置きを。名前の由来は、施主であるワールドリー・デザイン代表の明石あおいさんが考えた屋号で、語源は「まばら」です。意味は色々あります。疎(まばら)は、適度にスカスカしていること、だから、そこにある間とか、場に意識が集中して、面白い発想が生まれることが期待できます。あとはママとババァ?!…多様な年代のつながりや交流のような意味もあるようです。
    この上の写真は、瞑想部屋と命名された場所で、昔のまんまの蔵の外壁が見える二階の通路です。ここに椅子を置いて、疲れた時や集中したいときに、ボーッと考え込むところです。そういう空間って、大事だと思うんですよね。

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    正面玄関も雰囲気が出てきました。「さまのこ」と呼ばれる格子窓が入る枠が出来上がってきました。玄関は大戸です。銅製の雨樋もポイントです。今はピカピカですが、時間が経てば、いい感じの風合いが出てきます。1階の屋根は、昔の意匠を再現してみました。よーく観察してみると、1階の屋根を支えている桁が曲がっていることに気づきますが、こういったところに愛着を感じています。そうなると、水平、垂直の梁や柱が逆に違和感を感じるくらいです。
    通りすがりの人は、この建物を不思議そうに眺めています。わざわざ昔のデザインに戻すのが不思議だという声も聞いたことがあります。まさか、この建物が事務所になるとは想像もつかないかもしれません。

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    毎週水曜日は、定例ミーティングの日です。建築家の濱田さん、藤井工業の社長、それに各業者さんが集まり、進捗や予定について情報共有します。要望などがあれば、この日にまとめてお話をします。1週間も経てば、積もる話は盛りだくさんなので、予定の2時間で終わった試しがありません。この場所は蔵の中です。この現場でもっとも暖かい場所であり、落ち着く場所でもあります。その昔、人は蔵の中で眠り、外敵から命を守ったそうです。天下泰平の世のなってからは、大事な家宝を守る場所になったと、ある本で読んだことがあります。蔵の中にいると、なぜかホッコリと安心するのは、日本人のDNAに刷り込まれた記憶によるものなのでしょうか…。

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    毎週のように現場に訪れていると、かなりの数の人たちがこの工事に関わっていることがわかります。現場で働いている職人さんたちを見ていると、施主だから偉い、みたいな発想は一切持てません!逆に、こんな面倒なプランに付き合ってくださって、本当に申し訳ないと思うくらいです。しかも、六角堂の工事でお世話になった職人さんが多いので、なおさらです。やりがいを感じてくれていたら良いなとか、楽しくで仕事してくれたらいいなとか、そういうことばかりを考えてしまいます。「頭が下がります」という言葉は、こんな気持ちのときなんだろうなと思うんです。

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    このオフィスには、3つの出入り口があって、ここがその1つ。内川に続く細い通りに面した入り口付近の風景です。ここから見た内川が最高なんです。力を持った空間が、細い通路の先に、フワッと広がっている感じが良いんです。空気を感じるとは、きっと、こういった風景を見たときに思うことなのでしょう。それが、日常になると思うと、ワクワクします。

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    ここは二階にあるミーティングルームです。元のオーナーさんが、隣接する小さな家屋を買い取り、壁をぶち抜き、一体的に利用していた場所です。壁は、子供のラクガキを残したまま、天井と床は新しくしました。外壁はペンキが剥げた状態の、ほぼそのまんまで利用します。古民家をリデザインするときに、いつも思うことは、絶妙なバランスが命だということです。新築住宅には、ある程度の方程式があります。ところが古民家には、その家独自の雰囲気がありますから、方程式を当てはめることは、なかなか難しいのです。例えば、これくらい味がある建物の空間には、プラスチック製品が合いません。木や土でできた空間には、雰囲気のある金属がマッチします。僕はすべての場所に木材を使い、バリバリの伝統工法で直すべきとは思いません。町家の構造体をしっかりと受け継ぎ、次世代に残すことが、今もっとも大事なことだと思うのです。

  • 難ありつつも、工事は進んでます write 明石 博之

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    古民家の改修は、開けてビックリ玉手箱、の連続です。これを楽しんで設計、施工してくださる方でなければ、もう拷問以外のなにものでもありません。(玉手箱は私にとっての)
    この写真は、右に蔵があって、蔵の建屋から続く増築部分を1階から仰いだところです。プチイベントやミーティングをするような開かれた空間になる計画です。構造は、現代的な建築に比べると大変頼りないように思います。しかし、今日まで80年も経過している建築だ、ということをよく考えてみてください。でも、見た目は確かに頼りないのですが…。

    孫にも衣裳ならぬ、古建築にも化粧、という発想はそう好きではないのですが、建築的に内装をきちんと収めようと思えば、ある程度の化粧は必要になります。でも、基本は柱を表わす「真壁」にはこだわりたいですね。

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    …こだわりたいですね、と言ったすぐあとに、昔の壁を覆い尽くしてしまう「大壁」の部屋です。ここはオフィスの中心機能となる事務作業スペースです。やはりここは、快適な空間を追求することにしました。こういった割り切りで良いんです。後の人がここをまた使う場合に、全部の壁を剥がして下されば、伝統工法の梁柱はしっかりと残ってますから。

    こういった工事の醍醐味を例えるなら、感覚的には「古いもんと新しいもんが入り交ざっている空間を楽しむ」です。新築の工事で、わざわざ古い部材で組み立てる人はいません。築100年近くの年季の入った柱に、新しく塗り直した土壁が接している部分、あ~、これが萌えるんですね、私たちの世界に限っては。

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    こちらは正面からの入口付近です。こちらの壁はご覧のとおり、土壁と竹木舞を落としてしまい、粗い木ずり壁のような下地をつくっています。あとはメタルラスに土壁です。随分と現代風な仕上だと思われる方もいると思いますが、伝統工法の良さを活かすために、ガチガチの固い壁にしないという方針は変わりません。構造の専門家の方に聞いたところ、大地震が来たとき、多少壊れる壁が良いと言っておりました。一点に力が集中しないことが大事ということですね。伝統工法に関して、私も随分と偉そうなことを言うようになりました。ちなみに、一部、トタンの波板が見えるのは気のせいです。

    二階へは、この鉄製の階段を使って登ります。古民家のなかに、こんなゴツイ存在のものが、デザイン的にどう納まっていくのか、楽しみです。実はこの階段、建築物の構造上の制限により、まっすぐに伸ばすことができません。当初の設計とは異なり、階段の途中にロフトのような踊り場を設け、さらに回廊のようにL字の通路をつくり、二階の吹き抜けの空間を通って、二階の休憩室に行くことができます。言葉で説明するのは限界がありますので、後の写真でご覧ください。

    階段の色ですが、このままでもカッコいい気がしてきました。

  • 一時、みっともない姿になります… write 明石 博之

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    雨漏りで傷んでいた二階の軒先まわりと、一階の屋根のすべてを撤去しました。表通りをふさいでいた単管の足場をバラして、ブルーシートで被い、かなり、みっともない姿になっています。この家も恥ずかしがっているに違いありません。隣の家々がバカにしている声が聞こえてきます。妄想が働きすぎでしょうか…。

    さて、通りに面した顔のすべてをもぎ取られて、可哀そうな状態になっていますが、これには理由があります。お譲り頂いたときの状態は、大きな引違いのアルミサッシでした。そして、クルマを入れることを想定していたため、元々あった一階の屋根を撤去して、高い位置に持ちあげられていました。

    それを今回のリノベーションでは、昔のオリジナルの意匠に近いカタチに戻そうと計画しました。多少、モダンな感じも入れつつですね。

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    家の中の様子はこんな感じです。ここは作業スペースになるところで、床は断熱材を敷いて、フローリングにします。3部屋続きの空間を使って、壁一面に机と戸棚が設置されます。この部分は伝統的な意匠はあまり残りません。あくまでも機能性の作業空間となります。中庭の柔らかい日差しが最高です。

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    そしてここが、中庭に面した土間の部分で、僕が気に入っている空間の1つです。中庭を見つめながら佇んでいるのは、古民家の町家をリノベーションして、オフィスにしようと大決断をしたワールドリー・デザインの明石あおい社長です。蔵の床下に敷き詰められていた砂は、結局、土間の方へ持ってきて活用しました。

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    設計サイドと業者さんとの打ち合わせで、頼もしい男どもが、わんさかいる様子です。あらためて、蔵のあるオフィスなんて、東京じゃ、絶対にありえないことだし、かなりの贅沢空間だと再確認するのでした。蔵の前はダイニングキッチンになります。

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    最後は、イベントとか、ワークショップするための空間になる場所で、天井を見上げて何かを考えている様子の写真です。このあたりは、もう建築としての体裁が保たれていないような場所で、壁やら柱やらの納まりをどうしていくのか、設計の濱田さんも悩ましいところだと思います。

    六角堂のときと同様、こんな寒い時期に工事になってしまい、関係者の皆様には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。どうか、引き続き、よろしくお願いします。