自家栽培の野菜を炭火焼きで食べる納屋レストラン、完成
リノベーションの途中経過をすっ飛ばしてしまいましたが、完成しました。
店名は<炭焼き納屋くさび>さんです。オーナーさんのご希望により「納屋感」を残したデザインにしました。かと言って、元の納屋そのままではオシャレ感が足りません。このプロジェクトでは、その辺りのバランスを大事にしました。
こちらは、お店に入って最初に見える光景です。京都で修業した料理人であるオーナーの山本さんは、当時働いていたお店の営業スタイルに共感していたとのことで、ご自身のお店も、カウンター越しのお客さんとのコミュニケーションを大事にしようと考えました。
2階も客席です。資材高騰により木材が手に入らないようになった昨今、この立派な梁を見るだけでヨダレが出そうです。建物の大きさにに見合わないくらい立派なものです。また、このねじり具合が素敵だと思いませんか。
壁は元あった壁の上から本漆喰を塗りまししました。天井は断熱材を仕込んで針葉樹系の合板をはめてあります。塗装は最近はまっている<いろは>です。木目がキレイに残りつつ、塗るだけで木材に高級感が出ます。
納屋に残っていた昔の木箱をインテリアの装飾品として利用しています。中身は提灯でした。こうした小物が「納屋感」の演出に一役買ってくれます。経年変化によって、なかなか良い色になっていました。
こちらも納屋に残っていた木箱で、中身は漆塗りの高台の御膳です。明治時代のもののようです。存在自体がカッコ良いです。
建物を道路側から見るとこんな感じです。外部はすべて杉板の縦張りですが、ここにもこだわりがあります。この外装が節だらけの板だと和風になりすぎてしまうので、大工さんに節が少ない材料を探してもらいました。世間がウッドショックになる直前の手配だったので、とっても良い国産材を見つけてくれました。
今回は建築士さんに法規の面でサポートしてもらいつつ、建築デザインは弊社GNLが<Sketchup>を使って、詳細なところまでを作りこみました。板のリズムと窓枠の太さとか、位置とか、あらゆる角度から見え方を計算して設計しました。<Sketchup>というソフトは本当に素晴らしく、僕の建築・空間デザインの可能性を広げてくれました。
ここも無垢の杉板を使って棚を作りました。お客さんから見えるところなので、「納屋感」のためにも杉板を使いたかった場所です。山本さんが集めたセンスの良いお皿たちが並べられると、はじめて完成したという気持ちになります。
こちらは洗面所です。水回りは店内とはちょっと雰囲気の異なるデザインにしました。正面に見えるシンクはコンクリートの躯体です。ちょこっと左手に見える台は山本さんのDIYです。それで思い出しましたが、今回、予算削減のために塗装の多くをオーナーさん自らにお願いしました。外装の杉板の高いところも、足場を登って塗ってもらいました。もの凄く上手に、味わいのある塗り方になったのじゃないでしょうか。ありがとうございました。
夜の外観です。灯篭看板が素敵だと思いませんか。高岡駅方面から来ても、店だとすぐわかるように、建物の角に置くようにしました。「灯篭看板がほしい」というオーダーは、京都で修業した経験からなのだと思います。灯篭のデザインは、だいたいの形を看板屋さんにお願いして作ってもらいました。ロゴのデザインは、ワールドリー・デザインさんです。
夜の店内の様子です。ここで何時間も眺めていたいです。店舗の真ん前に公園があるというロケーションを上手く利用しようと、公園の木々を借景にできるよう窓のレイアウトを考えました。多分、この景色だけ切り取ると、ここが高岡駅南の住宅街だとは思えないのではないでしょうか。
木造伝統工法の空間に、白色の丸パイプの手すりを配置することで建材同士のシナジー効果が生まれます。あとは梁や柱の色のバランスと面積、それに壁の色の面積、最後に白色のパイプの存在が調和すると、カッコ良い空間になります。これが「納屋感」と現代的なデザインとのバランスを考える楽しいプロセスです。
右手に見えるブリキの大きな箱も、元々納屋にあったものです。たしか、座布団が入っていた箱だったと思います。珪藻土の壁のちょっと低いところに照明を配置しました。ちなみに、厨房以外の場所では、照明器具を天井面に配置していません。古い建築の空間は、天井面に照明がありすぎると、その良さを壊してしまうという感覚を持っています。カウンターのベンチは、大工さんにつくってもらいました。
陽が落ちて、外灯が活躍する時間帯になってきました。先ほどの灯篭看板が道路沿いにあり、あとは建物を舐めるように配置した照明が足元までを照らしています。これにより、遠くから見ても「ココにお店があるよ」というアピールになると思います。
2階客席の照明が、それぞれの窓の配置と連動するようにデザインしています。これは外見の見栄えにも貢献するのではないかと思います。山本さんが塗った杉板が、とても自然な感じに浮き上がって見えます。
2022年3月10日、グランドオープン。すっかり人気の店となっております。週末は予約でいっぱいの日も多いらしいですよ。ネットで検索してみると「高岡にオシャレで美味しい店が出来た!」みたいな投稿を見かけます。山本さんも嬉しいと思うのですが、僕らも同じように嬉しいです。古い建物をリノベーションして、素敵に活用され、そこが話題のスポットになり、店主さんも、お客さんもハッピー、さらにまちが元気になる。これはマチザイノオトが目指す方向性です。
お店の前に4台分の駐車場を確保されています。今回、母屋とは別に、同じ敷地内にある納屋の活用方法として、とっても良いケースの1つになったと感じています。「実家の納屋をどうしよう、、、。」とお悩みの方も少なくないと思います。そんな方がいましたら、ぜひ実際にご来店してみてください。
□リノベ前の様子はこちら
リンク:【炭焼き小屋でなく、炭火焼きの納屋 マチザイNo.17】
Photo:ドットダック
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炭焼き納屋 くさび
〒933-0871 富山県高岡市駅南4-7-13
TEL:0766-30-4678
インスタグラム:https://www.instagram.com/kusabisumiyaki/
明石 博之
[組織] グリーンノートレーベル(株)
[役職] 代表取締役
[職業]場ヅクル・プロデューサー
1971年広島県尾道市(旧因島市)生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学ぶ。大学を卒業後、まちづくりコンサル会社に入社。全国各地を飛び回るうちに自らがローカルプレイヤーになることに憧れ、2010年に妻の故郷である富山県へ移住。漁師町で出会った古民家をカフェにリノベした経験をキッカケに秘密基地的な「場」をつくるおもしろさに目覚める。その後〈マチザイノオト〉プロジェクトを立ち上げ、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザインを仕事の軸として、富山のまちづくりに取り組んでいる。
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