小さな水辺の民家ホテル マチザイNo.12

  • 水辺の民家ホテル、オープン write 明石 博之

    今年の超大型連休直前、4月26日(金)、無事に?オープンの日を迎えることができました。
    工事がひと段落してから準備まで約2週間、必死で駆け抜けました…。
    古い建物の雰囲気を壊したくないという思いで、看板は非常に控えめ。「HOTEL」という業態看板をメインにしました。昔からよくあるボックスタイプの外灯を利用して、カッティングシートを貼ったのみのシンプルな造りです。でも、なかなか良い出来じゃないかと。デザインは、お馴染みの?ワールドリー・デザインです。

    内川の対岸から見ると、こんな感じです。
    「水辺の民家ホテル」の名に相応しいロケーションだと思いませんか?これは、WEBページのメインビジュアルにも使っています。色んなところに出かけた後は、静かな漁師町の夜を楽しんでもらいたいですね。

    この宿は小さな町家が2軒くっついていて、それぞれ1軒貸切の宿泊スタイルです。左の棟がウミネコと言います。そして右の棟がカモメと言います。その説明については、ぜひWEBサイトをご覧くださいませ。
    ちなみに、カモメの右隣に見える通路は、オフィスma.ba.lab.の内川へつながる秘密通路。

    建物の前に宿のパンフレットを置いておくのですが、土日は1日20部くらいなくなります。川沿いにあるっていうだけで、結構な宣伝効果があるのがわかりました。そう、やってみて初めてわかることばかりです。

    まずはカモメ棟の内装から見ていただきます。

    ダイニングを吹抜けの2階部分から見た光景です。テーブルはナラの集成材の天板に、オリジナルデザインのスチール脚です。

    やってみてわかった、と言えば、地元の方々から「親戚とか、息子たちが帰ってきたら、ここに泊まってもらったらいいねー」という話を沢山聞いたことは、まさにそれです。なるほどね、と思いました。予想外のニーズです。

    ダイニングと同じ空間のキッチンスペースです。正面に見えるは、僕の好きな「Oji」です。アーティストの笹木さんに、ひげかもめバージョンを描いていただきました。宿泊施設となると、水回りはきちんとしておかないといけません。ましてや、古民家のリノベですと、こういった空間で「押さえ」をしておかないと、場のバランスが悪くなります。

    そして、もっとも大事な「押さえ」ポイント、バスルームです。鏡の天井取付部と、照明器具がこの空間の雰囲気を牽引している、なんともいい感じになったと思います。

    お風呂とトイレは、泊まっている人がもっとも無防備になる場所です。僕はいつも、ホテルに泊まるとき、バスルームがどんな空間なのか期待します。普通のユニットバスだと、もうテンションが下がりまくります。でも、気持ちはわかるのです。メンテナンスと費用を考えると、それが無難です。

    このバスルームのように、モルタルとタイル、そしてホーローのバスタブ、さらにスチールのサッシなんぞ、ハッキリ言って無謀です。さらに坪庭が見える。この贅沢感がわかる方には、ゆっくりと味わっていただきたいです。(湯気で窓の外、見えなくなりますが…)

    ちなみに現在、この坪庭にカエデの木を置いています。以前は、洗濯機が置いてあった場所でした。

    2階はダブルベッドのある寝室です。天井を上げて、梁をちょい見せしています。やわらかい空間にしたかったため、和紙の壁にしました。調湿もできるし、珪藻土よりも若干安いです。キレイな仕上がりに大満足しています。小さな虫がコンニチワしないよう、隙間は徹底的に埋めました。

    この静かな空間で、気持ちいい朝を迎えてもらいたいです。特別な朝に、なってほしいです。

    内川から路地に入ってすぐのところに、ウミネコ棟の玄関があります。
    路地から入るというのも、この地ならではの体験です。特注のスチールのドア、小さくした窓を埋める壁は、ガルバニウム鋼板の素地です。継ぎ接ぎだらけのサイボーグみたいな壁ですが、いかがでしょう。

    路地を玄関にしたおかげで、内川に面したダイニングをこんな間取にすることができました。ブラインドを開けると、バーンと内川沿いの風景が見えます。
    uchikawa六角堂から見える景色を「額縁効果」と呼んでいるように、この景色を先にイメージして、空間デザインをしました。

    こちらは4名が広々座れるW1800mmのダイニングテーブルです。カモメ棟と同じデザインにしました。
    言い忘れましたが、カモメ棟の土壁は灰桜色、つまりグレーに少し赤を混ぜたようなテイストの色です。こちら、ウミネコ棟はうぐいす色です。ところどころ、白色の壁もあります。

    何の加工や補修もほどこしていない柱に、配線ボックスを使った照明器具です。カフェならまだしも、宿泊する空間に、こういった荒削りなやり方を許してもらるか、ちょっとしたチャレンジでもあります。

    ウミネコにはバスタブはありません。シャワーのみとなります。その代わり、洗面台を2つ作りました。古民家のリノベにとって、水回りは大事な空間です。天井が低い場所に水回りをもってくるのは一苦労です。シャワー室の空間は、2階の床裏いっぱいまであげて天井を取り、足元は排水パイプの勾配が取れる、ギリギリのところまで下げました。

    今回のプロジェクトをやっていて、ふと頭に浮かんできたのが「数字」でした。なんのことか、よくわかりませんよね。僕は数字が苦手ですが、広さ、色味、質感、値段などを数値化しながらデザインしている自分に、今回はじめて気づきました。

    内川に面したベッドルームです。こちらもふんだんに和紙を使いました。

    天井はセルロースファイバーで断熱しました。今回はじめて使ったセルロースファイバーですが、なかなか良いです!成分はリサイクルの新聞紙です。この季節、すでに気温は30℃を超す日がありますが、日中、2階の部屋にいても、なんとかエアコンなしでいけます。もちろん、真夏になるとエアコンは必要ですが、すでに断熱効果を実感できています。

    直営の新しい場を経営するということは、相当のパワーを必要とするわけです。その分、得られる楽しみ、経験は計り知れません。

    ものを作る人は、「いい使い手」でなければ、「いい作り手」にもなれないと思っています。いい食材に出会い、いい食事をしていない人は、いい料理人にはなれないです。

    そういう思いもあって、宿という業態を直営してみたいと思いました。色々な方からヒントをもらいながら、バージョンアップしていきます。

    内川沿いの漁師の町家が、民家ホテルになりました。
    ぜひ、一度、ご利用ください。

    水辺の民家ホテル カモメとウミネコ
    〒934-0022 富山県射水市放生津町19-18(内川沿い)
    TEL:090-2379-7575(9:00〜21:00)
    MAIL:mizube@minkahotels.jp

    WEBページ:https://minkahotels.jp/

  • 路地を飾る鉄のドア、上空にはカモメ write 明石 博之

    路地に面したA棟の入り口に、鉄製のドアが入りました。デザインをオーダーして、世界に1つしかない形のドアになりました。・・・カッコいいです!
    多分、かつては板張りだったであろう路地側の壁は、ガルバリウムの外壁に変わっていましたが、あえて、ガルバリウムを楽しんでみようと思い、鉄製のドアにしてみました。さて、何色にしようかな。

    リノベーション工事につきものは、スケジュールの延期です。途中、途中でいろんな問題が浮上してくると、余計な手間もかかるというもんです。職人さんたちは、3月に入ってから、平日も土日も関係なく、しかも夜遅くまで作業をしています。まだまだ寒いので、風邪なんぞ引かないようにと願います。

    そんな苦労を知ってか、知らずか。すぐ隣の電柱のうえで休んでいるカモメは、朝からゆっくりとひなたぼっこをしているようです。ちなみに、カモメ、ウミネコ、トンビ、カラスは、それなりに縄張り争いをしているようで、たまに異種混合の対決をしている場面を見かけます。ちなみに一番強いのは、トンビです。

    工事の状況・・・といっても、いつものように遅れ遅れで記事をアップしているので、2週間くらいのズレがあります。こちらはB棟のお風呂場です。こちらの鉄製窓も入りました。木ずりの壁はモルタルで仕上げる予定です。バスタブは工事の最後頃に入る予定です。ホーローにこだわったので、納期が遅くなりました。

    2階の寝室は、まだまだ仕上がりがイメージできません。和紙の壁にしたいとお願いをしたので、ここの出来上がりはとくに楽しみにしています。B棟はダブルベッドに2名で泊まってもらう部屋になります。朝起きると、優しい光に包まれている部屋になるよう間取りを考えています。

    これ、何だと思いますか? 実はスーパーファイバージェットという断熱処理の方法です。屋根と天井、壁と壁の間にノズルをつっこみ、新聞紙を粉々にしたようなものを吹き込みます。それが空気の層をつくり、断熱材となるようです。今回は、天井を中心に吹き込んでもらいました。この白い袋状の部分にびっしりと入っています。

    こちらはA棟の寝室です。仕切り壁が出来て、部屋らしくなりました。正面の壁も、和紙を貼る予定です。天井に見える木の梁と和紙の壁は、きっと相性が良いはず。右に見える穴は埋め込み式のエアコンが入る場所です。こちらも早く完成が見てみたい!

    壁をつくってしまう前のシャッターチャンスです。ここは鴨居の上の垂れ壁ですが、なにげに他の場所で使っていた鴨居を切って、再利用しています。材料を無題にしないのもリノベーションでは大事なこと。

    ここは秘密の部屋? 倉庫として使っていた部屋を改造して、一人が泊まれる個室にしました。天井も低く、小さな窓が1だけついています。それを逆手にとって、秘密の部屋っぽくしたら面白いと思い、入り口のドアの形とか、壁の仕上げなどを工夫してあります。

    さて、オープンは4月26日、という方針を出しました。今年はなんとゴールデンウイークが10連休になるそうで、ここを逃したくないと思うので、なんとか間に合わせたい!でも、時間がない!!大丈夫だろうか・・・。いや、職人さんたちを信じよう!

  • オフィスma.ba.lab.の裏で、ウキウキする工事現場 write 明石 博之

    絶賛リノベーション工事中の現場。ここは事務所のすぐ裏です。事務所でデスクワークをしていても、現場が気になって気になって仕方ありません。極端に近いのも、ある意味困りものです。

    同時進行中の<きよた旅館さん>は、富山市に行くついでがあれば、必ず現場を見に行きます。いや、本音はちがう!見に行きたいから用事を作っていると言っても過言ではありません。リノベ現場は中毒性があります。

    昨年末にオープンした<Bridge Bar>はというと、現場まで自転車で3分、歩いても10分程度でした。この絶妙な距離も、僕を悩ませてくれました。近いのは嬉しい悩みですが、遠いのは苦悩です。だから、県外の現場のお仕事など、とてもとても考えられません。

    話が前に進みませんね。すみません、こちらは2軒あるうちの1軒で、コードネーム「B棟」です。建物全体が築90以上と思われますが、この吹抜け部分がもっとも古く、多分100年くらい経っているのではないかと推測できます。小さな民家に不釣り合いなほど立派な梁を、ぜひ見てもらいたいと思うので、屋根裏で断熱をして、梁を露出します。

    先ほどの吹抜け空間から見上げてみると、2階のフロアがあります。ここは客室(ベッドルーム)になります。こちらは、天井の梁をチラ見せするようにします。これは大工さんのアイデアです。いつもアグレッシブに提案してくれるのでありがたいです。

    ここでウンチクを少し。宿とは、リノベーション工事にとって特別な扱いが必要な建物なのです。飲食店よりも清潔感が必要なので、ついつい「フツー」な空間になってしまいがちです。これはある程度仕方ないこと。しかし、そこで諦めたらダメなんです。ボロボロの梁や柱を魅力と見せることができるか、単に古くて汚い存在に見せてしまうかは、まさに腕の見せ所なのです。プロジェクトチームが、そういった価値観を共有できていないと、チグハグでダサい空間になってしまいます。

    こちら、ジャストサイズのまさに「坪庭」です。以前は洗濯機とか置いてあったランドリー空間でしたが、ゾーニング計画の時点で、この空間に救われました。この空間があるのと、ないのとでは、宿のコンセプトが違ってきます。ありがとう、坪庭。ここを町家づくりの醍醐味を感じる場所として演出してみようと思います。

    ちなみに、このすぐ裏が<オフィスma.ba.lab.>です。そして、ここに土台をつくって、見えない位置にエアコン室外機を置くというアクロバティックなチャレンジもする予定です。町家はいつも、エアコン問題との戦いです。

    お隣のコードネーム「A棟」に移動します。こちらはコンクリ土間の部屋があります。グループで泊まって、料理もつくって、ワイワイやってほしいと思っています。A棟は、B棟よりも若干新しく、と言っても築90年は間違いないですが、比較的柱や壁がキレイでそのまま露出して使えます。根太が見える天井も可能な限り見せていこうと思います。ちょうどこのタイミングは、配管、配線を仕込中なので、至る所でカオスな光景を見かけます。

    申し遅れましたが、今回のプロジェクトチームです。設計は<濱田修建築研究所>です。施工は<大野創建>です。建築士の濱田さんとご一緒するのは、これで3回目、お互いのクセもわかっているのではないかと思います。大工の大野さんとは初めてのお仕事です。いつもいつも、良い人たちと仕事が出来て嬉しいです。お世辞じゃないっすよ。

    2階に上がってきました。A棟は4名泊まれます。小さな部屋で区切られていますが、快適な夜を過ごしてもらうために、素材や照明などに拘るつもりです。予算の都合で、既存のアルミサッシを使う箇所もあります。断熱性能は下がりますが、すべてがパッキパキのサッシになってしまうのもどうかと思います。昭和の型ガラスや、枠の細いアルミサッシも楽しんでもらえる世界観をつくりたいですね。

    こちらは2人部屋の小屋組みです。Bridge Barで発見したのと同じような梁です。ちょうど内川に面した建物にあったという点も一緒です。梁に点々のような跡。リズミカルな模様に見えますが、何かで薄く削ったような感じです。何人もの大工さんに聞いてみても理由がわかりません。こうする合理性はあるのでしょうか??

    この部屋にも大々的な屋根裏の断熱をします。梁を出す代わりに、隅から隅までしっかりと隙間をつくらないようにしないと、寝ていたら虫が上から落ちてくる、、、という悲惨なことになりますから。僕自身もそんな思いをしたくないので。

    この写真は、2019年1月21日に撮影したもの。当日は雪が降っていたんですね。今年は、ほとんど雪が降らなかったですね。そのお陰で工事にも大きな影響はありませんでした。でも、北陸の冬を楽しんでもらうためには、やっぱり雪はある程度降ってもらいたいものです。雪国が好きだと言い張っていた僕も、今では「雪が降らないでほしい」という気持ちが強くなっていました。しかし、この宿に泊まりに来る人のことを思うと、雪が降りしきる漁師町の風景を楽しんでもらいたいと思うのです。でも、去年のような大雪はこりごりです。都合の良い人間です、まったく。