小さな水辺の民家ホテル マチザイNo.12

周りがどんどん壊れていく…

GNL(グリーンノートレーベル)は、町家のオフィス「ma.ba.lab.」の一部をシェアさせてもらい、事務所として使わせてもらっています。(もちろん、しっかり家賃払ってます)

内川に事務所を構えてみると、今まで以上に周辺の空き家のことが気になってしまい、以前よりも増して、往来する建築業者のトラックの動きに敏感になっている自分がいました。

空き家のことにアンテナを張っていると、色々な情報が耳に入ってきます。空き家になったら、すぐさま報告してくれるご近所さんもいます。その1つ、ma.ba.lab.と隣接していて、内川に面している古い町家に動きがありました。
ma.ba.lab.に引っ越してすぐは、まだおばあちゃんが一人暮らしをしていました。体を悪くされてから、息子さん夫婦の元へ行くことになり、ここを処分したいという話が舞い込んできました。

ma.ba.lab.と運命共同体、隣接する建物を取得

2017年の春、地元のNPO、水辺のまち新湊さんを介して、早速、所有者の方とお会いすることになりました。

ma.ba.lab.と隣接する建物であれば、解体するときの影響は免れません。ましてや、内川に面している物件となると、景観保全の観点から、なんとしてでも取得しなければいけないと思いました。

上の写真ではわかりづらいですが、年季の入った物干し台のあるお家と右隣のお家です。建物は2軒ですが、間の壁をぶち抜き、ひとつの家として使われていました。この写真は、おばあちゃんが住んでいた頃に撮影しました。

内見させて頂いたとき、所有者のおばあちゃんと、親戚の方、息子さん夫婦と面会しました。壊すには忍びない、誰か使ってくれるなら譲りたいと話してくれました。多分、昭和初期の建築で、漁師さんが住んでいた典型的な地元スタイルの町家だと思いました。しかし、内川側に玄関があるは大変珍しい造りです。

ma.ba.lab.があるこの番地は、10~20坪の小さな家がくっついているパターンが多く、広い町家だと思ったお家でも、実は小さな家を継ぎ足した場合も少なくない。Tさんのお家も、小さな家が連結して出来たような造りです。

ひとまず個人で購入することに

なんとかしたいという気持ちはあれど、いざ取得、そしてリノベするとなると、またそれなりの費用がかかります。
不動産屋でもあるまいし、とりあえず取得するために銀行は、弊社にお金を貸してくれません。そこで、ひとまずは、個人的にこの物件を買わせていただくことにしました。

今回は検討する時間的余裕がなく、ろくに建物の調査もせずに買うことを決断しました。とにかく、内川に面していて、しかもma.ba.lab.に隣接する建物がどうにかなったら大変だ!という理由だけです。残置物はそのまま、補修も何もない現状渡しという条件のため、ある程度のプライスダウンをして頂きました。

で、ここをどうするのか…

かねてからの夢は、小さくても良いから宿泊施設をつくること。ここ内川にですよ。この地区からもっとも近いホテルは、徒歩15分の「第一イン新湊」というビジネスホテルです。その他、一泊1,000円で泊まれる移住体験施設なるものがあって、空き家になった町家を利用し、お試し暮らしをする取組みとして、市役所とNPOさんが運営している宿。最近では、この近所に、大きな町家一棟を貸切にできる宿もできました。

しかし、相変わらず、需要に対して供給が追いついていないと思います。しかも、内川の魅力をカルチャー、プンプンで伝えるような「場」が必要だと思います。

向かって右側のお家の中は、ザ・昭和リフォームにありがちな、突板のような化粧のオンパレード。伝統的な意匠は完全に隠されています。しかしここは、新湊博物館の壁に貼られた昔の内川の写真に写っている町家。築90年近いと思われます。その証拠に、ma.ba.lab.のお隣に住んでいる80代のおばあちゃんが「私が小さい頃から建っとるから、相当古いがじゃない?」と言ってました。

そして、向かって左側のお家は、二階の床を支える根太(力根太とも言う)が丸見え、柱と梁が現しの砂壁で、ザ・伝統的な意匠の内装です。町家造りの一番端っこのお宅、つまり片側に隣接する建物がもともとなく、道路などになっている場合、並びの他の町家に比べて梁や柱が太い場合があります。実はこの建物もそうで、小さな建物の割には柱が一回り太いです。見るからに頑丈そうな造りをしています。これはラッキーかもしれない。

せっかく1つになったお家をまた2つに

ここですね。両方の建物のこの部分の壁をぶち抜き、行き来ができるようになっています。奥の台所付近にも同じように、ぶち抜き通路があります。宿泊施設として使うには、ここをふさいで「2棟」にしたほうが使い勝手は良さそうです。既存不適格のまま用途変更なしでいける面積が200㎡に拡大するらしいのですが、いつからはわからないので、今の段階では100㎡の基準に収めたほうが良さそうです。

まだまだ詳細は決まっていませんが、まずは小さな町家2棟で宿泊施設をやってみようと思います。今どきの言い方で言えば「ゲストハウス」なのかもしれませんが、ゲストハウスは比較的リーズナブルで、若者が利用して、建物もあまりお金をかけない、みたいなイメージがありますが、多分、この建物は相当手を入れないと宿泊施設として成立しないので、ちょっとイメージとは違うかも。自分自身がゲストハウスのような宿泊施設が苦手なので、多分、お客さんの気持ちにはなれないかもしれません。だから辞めておきます。

で、考えたのが「民家ホテル」です。フロントがないし、10部屋ないのでよく言われる区分的には「ホテル」じゃないと思います。でも、気持ちが「ホテル(語源のhospitalis)」なんです。

この場のとっておきの価値とはなに?

もうそれは、言わずもがなで、この内川の水辺です。窓の外が漁師町で、漁船がすぐ目の前に停まっている風景のなかで、皆さん泊まったことがありますか?(新湊の人は別)もう、これ以上の価値がありますかね?!

富山と言うより、地方に暮らす人たちは、そのまちのロケーションの価値を低く見ています。あなたが見ているその風景は、お金で買えるか、創れるか?そう考えてみてください。世界の資産家がこぞって投資したら創れる風景ですか?・・・もしそうじゃなかったら、それはそこにしかない価値です。しかし、自分が何もしないのに、不動産だけを高く見積もるのは良くないですね。そうやって没落した町は少なくないと思います。

余談が過ぎましたが、小さいけど「ホテル」を造りたいと思います。グリーンノートレーベル直営の、めちゃカッコいいやつです。(と、自分たちに高いハードルを設定しておきます)


明石 博之

[組織] グリーンノートレーベル(株)
[役職] 代表取締役
[職業]場ヅクル・プロデューサー

1971年広島県尾道市(旧因島市)生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学ぶ。大学を卒業後、まちづくりコンサル会社に入社。全国各地を飛び回るうちに自らがローカルプレイヤーになることに憧れ、2010年に妻の故郷である富山県へ移住。漁師町で出会った古民家をカフェにリノベした経験をキッカケに秘密基地的な「場」をつくるおもしろさに目覚める。その後〈マチザイノオト〉プロジェクトを立ち上げ、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザインを仕事の軸として、富山のまちづくりに取り組んでいる。

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