幅の狭い、9尺の町家SOHO マチザイNo.7

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新湊ならではの狭さ

確かに、1軒間口の建物は、新湊では珍しくありません。でも、生活をする空間としての1軒間口は、あまりにも狭すぎます。しかし、もう半軒(3尺)広がるだけで、事情がガラッと変わります。1軒と1軒半との間には、使い勝手として、かなりの開きがあります。その代表例が、クルマの駐車場として使えるかどうか、という瀬戸際です。だからこそ、ここまで生き残ってきたのです。そしてこの佇まい、なんとも愛らしいではありませんか。この建物は間口が9尺で、しかも「つし二階」の古い町家に両側から挟まれているものですから、余計に細長ノッポに見えます。「僕、頑張ってます」感があります。

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マチザイノオトは突然に

ある日、たまたま大阪から新湊に戻って来られていた、この建物の持ち主さんとお会いしました。現在は、屋根付きの貸し駐車場として利用している建物があって、屋根に穴が開いているし、建物の管理も大変だし、更地にすることも考えようかしら…、という話をお聞きしたので、その建物を一度拝見させて頂くことにしました。
で、見てビックリ!リデザインするにはモッテコイの建物だったのです。もともと倉庫として利用されていた分、シンプルな構造だし、既存建材を解体するコストも安く、しかも二階の床があります。躯体もしっかり、いい感じで古さをキープしてます。これはもう、駐車場付きのSOHOにピッタリ!パソコン1つで仕事ができるクリエーターが移住してきて、仕事をする拠点になる!と直観的に思いました。

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何度見ても、萌える屋根組

階段を登ってみると、二階には、こんな風景が広がっていました。実際にここを所有されているのは、先ほど「持ち主さん」と言った方のお母さまです。なので、持ち主さんは、この日はじめて、二階を見たそうです。確かに屋根裏を見上げると、所々に青空が見えます。今日も天気良いです。
もしここで、この屋根組の梁柱を見ながら、窓を開けて、港町の風を感じながら仕事ができたら最高じゃん!という思いがこみ上げてきまして、ここをSOHOにしませんか!借りる方も見つけます!と提案しました。持ち主さんも、面白そうねとご賛同下さり、早速プランを練って、見積をしてみることとなりました。

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昔の鳥かご、しかもこんなに沢山…

待ってました!グリーン・ノート・レーベルとしては、こういう物語性があるコンテンツが大好物なのです。これを見た持ち主さんから「あ、ここにもあったのね」的な一言。事情を聞いてみますと、昔、お父様がカナリアを沢山飼ってられたそうです。他の場所には、この数以上に鳥かごがあったそうです。カナリアで思い出すのは、カナリアイエローという色ですが、東京の山手線の車両に最初に使われたと聞いたことがあります。間違っていたらごめんなさい。

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波トタンの外壁で、いつも思うこと

屋根組の部分は、壁がなく、外壁のトタンが丸見えです。ここもボツボツと穴が開いています。このトタンは、私たちが愛すべき建築素材の1つで、新湊の風景には欠かせないものです。しかし、実際に改修工事をする場合、錆びて穴の開いてしまったトタン板をどう扱うか、ここが悩ましいところです。ちなみに「トタン」は、ポルトガル語のTutanaga(亜鉛)が由来です。つまり、亜鉛で出来た鋼板です。最近は、ガルバリウムで出来た鋼板が主流で、わざわざトタン板を使う方は少ないと思います。しかし、そのトタン板でさえ、最近は塗装技術の進歩により、10年くらいでは錆びません。あぁ、波トタン、カッコいい…。錆びてしまうけど丈夫!というトタン鋼板はないものでしょうか。
というわけで、新しいマチザイノオトが始まります。


町家SOHO[address:富山県射水市放生津町11-17]
※実際の場所はMAP上のピンがある場所から西へ2軒隣


明石 博之

[組織] グリーンノートレーベル(株)
[役職] 代表取締役
[職業]場ヅクル・プロデューサー

1971年広島県尾道市(旧因島市)生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学ぶ。大学を卒業後、まちづくりコンサル会社に入社。全国各地を飛び回るうちに自らがローカルプレイヤーになることに憧れ、2010年に妻の故郷である富山県へ移住。漁師町で出会った古民家をカフェにリノベした経験をキッカケに秘密基地的な「場」をつくるおもしろさに目覚める。その後〈マチザイノオト〉プロジェクトを立ち上げ、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザインを仕事の軸として、富山のまちづくりに取り組んでいる。

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