新湊に本気のイタリアンがやってくる マチザイNo.15

この日がついにやってきた

まだまだ残暑が厳しい、昨年のある日のことでした。とても気持ちいい天気だったので、撮影でもしようと思い、事務所から<水辺の民家ホテル>がある路地を通って内川へ(念のため、内川は富山県射水市新湊地区を流れる運河)。そこへ何やら、見学ツアー御一行様のような人たちが大勢いました。田舎なので、だいたい5人以上いると「大勢」という定義になります。

そこでたまたま出会ったのが、イタリアンシェフの藤田 晋爾(しんじ)さん。市役所の人や古民家に詳しい方々と一緒に空き家を内見している様子でした。お話を聞いてみると、内川が気に入って、この辺りでレストランをしたいと思っているとのことでした。「いい感じの古民家の宿があったので、この近くでレストランをしようと思って、、、」と、藤田さん。

き、来ましたよ、ついに内川にサードウェーブが。

で、結局のところ、内川沿いはピンとくる物件がなかったようです。「空き家は沢山あっても、まともな建物がない」というフェーズに入ってきた空き家問題はどんどん深刻な状況になってきました。修繕にお金がかかる空き家は、なかなか活用されないまま放置され、いずれは朽ちてしまうのです。

藤田さんが購入した物件は、射水市の空き家バンクに登録されていたこちらの空き家です。連なる2軒がたまたま空き家バンクに登録されていたそうです。ここを住居兼レストランにするという計画でした。と、話を進めながら、建物のなかを見てみましょう。

先ほど「サードウェーブ」と言いましたが、私が勝手に定義している内川のまちづくりにおける、新しい波のような意味合いです。内川で言うところのファーストウェーブは、私たちが、約11年前に内川と出会った頃です。内川沿いの遊歩道や個性的な13本の橋が整備され、地元のNPOさんや有志の人たちがイベントを仕掛けたり、自宅の一部を改装して喫茶店をしていたり、遊覧観光船が通っていたり、そういったまちづくりの基盤がありました。

そこにやってきた私たちのようなよそ者が加わり、地元の人と一緒に空き家を使ったリノベーションを進めてきました。誠に勝手ながら、これを「セカンドウェーブ」と呼んでいます。<uchikawa六角堂>をつくったとき、地元の人たちは本当に不思議に思っていたみたいです。こんなところにカフェをつくっても1年で潰れると、色んな人に言われました(笑)

そしてそして、そうしたセカンドウェーブの人たちの動きを見ていて、「あ、自分もここに来て一緒に内川を盛り上げたい!」と思ってくれて、私が口説く必要もなく、自然に内川に来てくれるような流れが「サードウェーブ」なのです!他にも、古民家をリノベした美容室や雑貨店も増えました。

マチザイノオトをはじめて、10年も経ってしまいましたが、そういった新しい動きが生まれてくることを心から嬉しく思います。しかも、内川沿いだけではなく、海が見える空き家のリノベもありだなーと思ったのが、藤田さんが教えてくれた新しい選択肢です。よく考えれば、内川、内川と言いながらも、新湊は漁師町なので、どちらかと言えば、川よりも海のイメージが強いんですものね。

ずっと奥に見える、中庭の光に照らし出されている人が、この町家のオーナーの藤田さんです。<ラ・ベットラ・ダ・オチアイ>で18年修行して、同レストランが富山市に出店をしたのがご縁で、埼玉から富山へ移住をされました。それから、さらに料理を極めたいという思いで、漁師町の新湊に新たなレストランをオープンさせることに決めたそうです。ついにやりました!新湊で本格イタリアンが食べられるのです!

素敵だけど、水はけの悪い中庭

話をしているうちに、ぐいぐいと建物の奥へと進みます。こちらは、2軒続きの建物を正面から見て、向かって右手の建物です。新湊の町家の典型的な間取りです。残置物はたっぷり残っていましたが、現状渡しが取引条件だったようです。中庭には大きな石がたくさん。これだけベースがしっかりあるので、色々遊べそうです。

中庭の土が建物側に迫ってきていて、部分的に水はけの悪い場所がありました。ここは何とかしないといけません。マニア的な趣味の世界ですが、私は、町家の中庭を拝見するのが楽しみ、、、どころじゃなく、正しくは「萌え」ます!この町家はどんな中庭なんだろうと、玄関先から想像しながら空き家を拝見するとき、いつもワクワクしています。変態で、すみません。

中庭を囲む、三方の建具はすべて現役の木製でした。しかも、あまり痛んでいないようです。リノベした後の空間にも、ぴったり合うんじゃないかと思います。よくこの状態で残ってくれていたものだと、この木製建具たちに感謝を申し上げたい。ありがとう。

光の入り方も、なかなか良い感じです。お隣さんの建物との隙間があるので、きっと普通の町家よりもたくさん光が入ってくるのですね。気になるのは床下ですね。中庭の土がどれだけ建物に入り込んでいるか、ちょっと心配です。

台所までやってきました。「ちょっと心配」と思った矢先に、本当に心配なものを発見しました。写真の右側、中庭に面した柱です。痛んだ根本からをバッサリ切って、金物で継いでいる跡があります。この場所の床にも修繕した跡があります。やはり、中庭の排水の状況が良くないようです。ある程度解体をしてみないと排水の様子はよくわかりません。

水はけの悪い中庭に面した、建物北側に配置してある台所。しかも、北側の道路の高さよりも低い位置に建物があります。表通りから母屋を通ってここまで、とても状態の良い建物だと思いましたが、台所を中心としたこの一角は、何かと問題がありそうです。

窓から見える街並みの借景

階段をのぼって、2階にやってきました。廊下に立ってみると、さえぎるものがないので、南北どちら側も通りに面した窓が見えます。中庭に面した窓からきれいに光が入ってきています。

2階の中庭側です。しっかりと下見板張りの壁が残っていて、長い間、風雪に耐えてきたヴィンテージな板の表情が素敵です。今でこそ、大判の面材が安く流通していますが、昔の建築材料は、細いものの連結しかできませんでした。均一な広い面積をつくろうと思えば、左官仕事しか選択肢はなかったわけですよね。今なら、ガルバリウム鋼板1枚で、バーッと広い面の壁がつくれますから。

こちらは表通りに面した窓です。こちらも木製の建具が健在。正面にも素敵な下見板張りの大きな外壁が見えます。まさに借景ですね。古い街並みに住んでいる雰囲気を盛り上げてくれる風景です。藤田さんもここからの景色がお気に入りのようです。

このように、全面が下見板張りの壁です。目立った痛みがなく、まだまだ持ちこたえてくれそうなので、できる限りこの意匠を変えないでほしいと願いします。

ちなみに、壁に刺さっている「つっかえ棒」は、新湊ではお馴染みのもの。間口の狭い町家が側面に傾かないようにする工夫だと思うのですが、実際に効果があるのかどうかはわかりません。

2階がリビングだったのでしょうか。以前の持ち主さんが使っていたと思われるリビングソファーセット。今ではなかなか見かけない、昭和レトロなデザインです。
布を張り替えたら使えるんじゃないかと思い、ひとまず、工務店さんで預かってもらうことにしました。

今度は北に面した海側の部屋です。窓枠の細い、こうした昔のアルミサッシは非常にカッコいい。と、思うのは僕だけでしょうか?型ガラスの柄も素敵です。今のアルミサッシは、ペアガラスが入るように窓枠の厚みがあって、見た目にもごついです。リフォームやリノベーションのときに捨てられてしまう運命ですが、もっと見直されても良いと思っています。

窓をあけると、すぐ先に漁港が見えます!そして、海も見えます。

手前にあるコンクリート岸壁は、昔の堤防です。かつては、この堤防のすぐ向こうが海でした。この旧堤防の上のスペースは、ここに住む人たちが自由に使っていて、物干しざおがあったり、鉢植えの園芸を楽しんでいたりしています。先人にならって、藤田さんもここで何かをしてみるのかしら?

間口が狭いとはいえ・・・

2棟あるうちの1棟は、間口が2間(約3.6m)です。建物の正面から見るとそう大きな家には見えませんが、奥行きはなんと12間(約22m)です。
敷地いっぱいに、総二階建で建てられているため、中庭を除き、床面積は42坪(約138㎡)もあります!

最初に見た広いほうの棟が主にレストラン、こちらの棟が主に住居となる予定です。そうなのです、究極の「職住一体」パターンで、スティーブンさんが経営する内川沿いのバー<Bridge Bar>に近いイメージです。

昔の商店街は、1階が商店、2階が住居という造りの建物が多く、「職住一体」が当たり前でした。今の時代だからこそ、この生活パターンは見直されるべきと思います。

個人事業主であればなおさら、仕事がいきがいですし、生活と仕事を切り離すことはできません。せっかく地方で暮らすのであれば、都会では難しい「職住一体」の生き方をおすすめしたいです。

ここが二階の屋根まで吹き抜けになっている、町家で言うところの「オイノマ」です。差鴨居から上の雰囲気は、なんとかそのまま残して利用したいところです。

さらに、この昭和レトロな照明器具も、どこかで再利用したいので、ひとまずキープです。中に入っている電球ソケットを交換したら、カッコ良くなりそうな予感がします。

こちらの可愛らしい中庭(まさに坪庭)も、なかなか良い雰囲気です。

シェフが暮らすレストラン付きの住居、つまり「職住一体」のこの場所があれば、どんな事態になろうが、なんとかやっていける気がします。しかも、ここは新湊漁港の近くですし、農家とのつきあいもあるとなれば、怖いもんなしです。

中庭に見える室外機。そうだ、町家の室外機置場にいつも悩まされます。現代的な暮らしを送ろうとすると、1つの部屋に1台は当たり前。最近は室内機を複数動かせるマルチタイプが普及し、価格が安くなってきましたが、それでも細長い造りの町家は空調工事が高くなりがちです。

こちらは海側に面してあった車庫です。電動シャッター付でした。ここはテイクアウトコーナーとして利用したいとのことです。昼はテイクアウト、夜は予約制のディナー、昼と夜は別の顔、、、いいですねー。

シャッターが閉まらないよう、藤田さんにストッパーの紐を持ってもらっている図。

どちらの棟も、きちんと両方の通りに面している建物だったので、ゾーニング的にはとても優れている間取です。

2階に移動しました。中庭から見えるすべての屋根が黒い瓦、そしてすべての壁が下見板の仕上げ。すてきな光景です。

ちなみに、ただでさえ海が近いだけでも塩害には気をつけなければならないのですが、冬になると、海からの風とともに塩が舞い、煙のように見えます。

これが建物に降りかかるので、ガルバリウム鋼板だって錆びてしまいます。外灯の塗装も白くなっていきます。つまり、木の板の壁が、もっとも長持ちするのではないかと想像します。

指を差しているのが、マチザイノオトではお馴染み、一級建築士の濱田修さんです。濱田さんとのタッグは、<uchikawa六角堂>からのご縁です。今回のプロジェクトで、5度目のタッグになります。もう10年のおつきあい。

いきなりですが、私は、幸せ者です。

またひとり、富山の地で、良いご縁に恵まれました。マチザイノオトという活動のなかで出会った人々とは、一生のおつきあいになると思います。今のところ、ひとりとして「気が合わない」という方と巡り合っていません。

というより、気が合わなさそうな人であれば、たとえ仕事であっても、プロデュースを引き受けないかもしれません。今回のプロジェクトも、命を燃やして取り組みたいと決意しています。

皆さん、ここに本格的なイタリアンが出来ます!お楽しみに!


明石 博之

明石 博之

[組織] グリーンノートレーベル(株)
[役職] 代表取締役
[職業]場ヅクル・プロデューサー

1971年広島県尾道市(旧因島市)生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学ぶ。大学を卒業後、まちづくりコンサル会社に入社。全国各地を飛び回るうちに自らがローカルプレイヤーになることに憧れ、2010年に妻の故郷である富山県へ移住。漁師町で出会った古民家をカフェにリノベした経験をキッカケに秘密基地的な「場」をつくるおもしろさに目覚める。その後〈マチザイノオト〉プロジェクトを立ち上げ、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザインを仕事の軸として、富山のまちづくりに取り組んでいる。

■ 関連記事